東工大数学系院試体験記

こんにちは。もちとらと申します。

東京工業大学理学院数学系の院試に合格したので、対策や当日の流れなどについて書いておこうと思います。

 

自己紹介

東工大数学系の4年です。代数系の研究室に所属しています。

院試の概要

まず、来年度以降大きく変わりうる情報であることを断っておきます。自分が受ける年度の要項を確認するようにして下さい。

数学系の院試は、出願書類作成→試験→合否発表という具合に進みます。

出願書類については、志望系にかかわらず全員が提出するものの他に、志望理由書を書く必要があります。今まで何を学んだかを講義、独学問わず一度振り返る作業をすることになろうかと思います。

出願関係の手続きが終われば、基本的に試験日までイベントはないので、お勉強しつつその日を待つ、という感じです。

試験は筆記試験と口頭試問に大別され、筆記試験は数学(午前)、数学(午後)、英語に分かれます。

午前の数学は、微分積分線型代数位相空間論など、東工大数学系全員が必修として学んでいる内容が出題され、これは全問必答形式です。

一方午後の数学は、それぞれの専門に近い分野の問題がいくつか出題されます。そのような事情から、選択形式の試験になっています。近年は2問選択式が採用されているようです。

英語試験については過去問が公開されていないので、詳しくは書きません。辞書を持ち込むことができるところが大きな特徴でしょうか。これだけは書いておきますが、一般的な英和・和英辞典を持っていくことをお勧めします。数学英和・和英辞典を持参した同期がしょっ引かれていて不覚にも笑いました。

筆記試験の後、口頭試問受験資格者が発表され、選ばれた人は口頭試問に進むことができます。数人の教員とオンラインで面接し、テストに関してであるとか、進学後のことについてだとか、色々訊かれると思います。その後、合格者が発表され、院試が終了します。

対策

スケジュール

対策を始めたのは、3月の中頃でした。数学系同期の友人が立ち上げた対策会に引っ張られる形で、最初の数週間は過去問を毎週1セットのペースで解いていました。*1

そんなわけでダラダラと過去問を解いていたわけですが、5年分も解けば自分の課題点がだんだんと浮き彫りになってきます。僕の場合は予備知識の面で体論・ガロア理論に問題があり、その他の分野についても、その場で想定時間内に解ける問題は決して多くはありませんでした。これを受けて、過去問を消費してしまう前に、基礎知識をもう一度確認する必要があると考えました。

というわけで、4月頃から院試対策会には顔を出さなくなり、対策作業の大部分を読書に置き換えました。

はじめに体論の本を読み始め、徐々に環論、群論線型代数と読んでいきました。参照した本とそれぞれ要した時間については後述しますが、4月末から7月末くらいまでがこの作業に費やされました。院試の本番が8月中旬くらいなので、この時点で残り3週間程度ということになります。

この3週間の間で、用いた教科書の演習問題、市販の演習書、院試の過去問の順に問題演習を積みました。院試対策会を通して同期が作成した答案を参照することも多く、この頃はかなり助けられました。本当にありがとうございます。最終的に、公開されている過去問のうち、現行の試験範囲で凡そ御せる問題を解いた状態で、本番を迎えました。

参照した参考書・問題集

参照した本を列挙しておきます。だいたい時系列順です。

参考書

2章〜3章途中(巡回拡大あたりまで)を読みました。一番知識が薄い分野だったこともあり、かなり丁寧にやったので、結局3ヶ月くらいかかりました。読み応えがあり、かつすっきりとした叙述で、得るものは大きかったです。

  • 堀田良之『可換環と体』(5日)

第1部(環論パート)1、2章をサラッと流し読みしました。主要な内容が自然な流れで簡潔にまとめられており、一度学習した内容を改めて整理するのにとても良い本だと感じました。

  • 堀田良之『代数入門 ー群と加群ー』(1日)

最近の過去問の中に1つ単因子論関連の出題があった*2ので、単因子論について書かれた部分(2章)のみ参照しました。単因子論が簡潔にまとめられています。本書より紙面を割いて単因子論を詳細に、そして平易に解説した本として、同氏の『加群十話』(かぐんとは)があります。これも少し参照しました。

  • 鈴木通夫『群論』(6月中旬〜末)

上下巻合わせて1,000ページくらいあります。ウケますね。参照したのは1章の一般論、Sylowの定理、p群、対称群などで、合計150ページくらいだと思います。尋常ならざるボリュームからお察しの通り、非常に説明は丁寧で、かつ内容も豊富です。

また、チョロっとだけ寺田至、原田耕一郎『群論』も参照したことを申し添えておきます。

前半の1〜4章を読み直しました。主に有限群の表現論について書かれた本ですが、前半部分は純粋な線型代数続論として読むことができます。一つ一つの話題が簡潔で小気味良く、サッと復習をするのにも適していると思います。

問題集
  • 参考書の演習問題(3~4日)

何も考えず端から解いていきました。未だに解けていない問題もありますが、基本的な問題はここで大体拾えるようになったと思います。

  • 永田雅宜『大学院への代数学演習』(7日)

かなり難しく感じました。問題そのものの難しさと、解説の難解さがダブルで効いてくる印象です。解説が読めない場合は、それと微妙に異なる方法を捻り出してなんとか解いたりもしました。解けていない問題も少なくないですが、解ける問題の幅が広がったように感じます。

  • 過去問(10日前後)

まず直近年度を残して古い方へと遡っていき、試験直前に直近年度を解きました。

本番

筆記

出題された内容については他の記事が詳しいので、感触だけ書いておきます。

午前

  1. 線型代数:ほぼ完(?)
  2. 線型代数:完
  3. 位相:2/4完
  4. 微分積分:1/2完
  5. 微分積分:1/2完

午後

  1. 環論:完
  2. 体論:1/2完

午前午後共に7割周辺という感じでしょうか。各問の講評については他の記事に譲ります。

面接

対策としては、解けなかった問題の解き直しと、証明なしで用いた事実の証明の確認作業を行いました。代数系志望の同期たちと喋りながらやっていたので、だいぶ気が楽でした。本当ならペーパーテスト以外の事項についても準備をするべきですが、このときは忘れていました。

本番ではテストに関係ない事項についてのみ訊かれたので焦りました。まあなんとかなりましたが。

あとがき

凡そ5ヶ月の準備期間を経て院試が終了しました。長いようですが、やっていることを考えるとあまり余裕はなかったように感じます。院試対策会の運営に貢献することは終にありませんでしたが、非常に助けられました。同期諸賢の過去問答案データがなければ、消化不良のまま本番に突入していたことでしょう。この場を借りて感謝申し上げます。

追記

同期が書いた体験記のリンクを貼っておきます。ついでに数理計算の同期の体験記も貼っておきます。

  • 対策会発起人の体験記

  • 辞書を回収された同期の体験記

  • JSのおとももちの体験記

追記(2023/11/21)

請求しておいた成績が届いたので共有します。

配点は不明ですが,思ったより点が来てないなという印象です。てか英語100って何?

 

*1:対策会については、発起人の体験記をご覧ください

*2:2020午後大問2